ここがヘンだよ日本のアニメ業界

アニメ会社で働きながら考えたことを書いていきます

このままでは日本のアニメ産業は無くなってしまう/日本のアニメ業界の抱える問題(2)

前のエントリで書いたアニメ業界の2つの大きな問題のうち、今回は人材について書いていこうと思います。
 
アニメ業界では常に人材が不足しています。
 
特にアニメーションの動きの根幹を描くアニメーターが慢性的に不足している状態です。
さらに言うなら作品作り全体を管理する制作進行という役職も常に人手は足りていませんが、今回はアニメーターに限定して話を進めていきます。
 
まずアニメの制作の流れを見て下さい。
 
 
簡単に説明します。

 

まず絵コンテという画面の設計図が上がってきます。それを元に各アニメーターが原画を描いていきます。
最近のテレビアニメだと1話辺り大体30分で350カットぐらいですかね。もちろん話の内容や監督や演出の意向によってはもっと多かったり少なかったりします。
最近だと原画を描くアニメーターは20人から30人ぐらいが参加します。一人頭10カットから20カットぐらいを担当します。スケジュールが長ければ、一人がもっと多くのカットを担当して少ない人数で作ることもあります。
最初にアニメーターがL/O(レイアウト)ラフ原という原画のラフバージョンを描きます。
背景のパースやキャラの配置等、画面を構成する絵をL/Oと言います。
ここではパースに乗せて背景とキャラが描けてるかどうか、キャラの芝居は演出の意図と合っているかどうか、芝居がアニメーションの動きといておかしくないかどうかが重要になります。
それを演出がチェックします。大幅に意図とずれていたらリテイクとしてアニメーターに描き直してもらうし、少しの修正で大丈夫なら演出が自分で修正します。基本的には演出が自分で修正します。
演出がチェックしたカットを作画監督が絵的な修正を入れます。
何人ものアニメーターが描いてるのでどうしても絵柄がバラバラになるので、作画監督が動きのチェックと共にキャラクターの修正もします。作画監督が絵柄を統一する訳です。
作監修正後、アニメーターに戻してラフだったものをちゃんとした原画にしてもらいます。
原画作業後、もう一度演出と作監がチェックして(基本的にはここでは微調整で済みます)動画に回します。
 
不足しているのは動きの元を描くアニメーターです。
アニメーターが不足してどうなるかというと、しょうがなく下手な人に発注します。
新人だったり、やっつけ仕事しかしないベテランだったり、韓国や中国の海外のアニメーターだったりですね。
この原画(ラフ原)がダメだとそれを修正する演出・作監に負担がかかってきます。
近頃だと作監が複数人体制も当たり前になってますね。
作監は分担できるからまだしも、その話数の監督的ポジションの演出は一人で全カット担当しなければいけないので超大変です。
上手いアニメーターがたくさん入っているとみんな幸せになれますが、上手いアニメーターは各制作会社で取り合いなのでなかなかそういう訳にはいきません。
 
ここでアニメ業界にいない多くの人は、下手な人がアニメーターやってる訳がないだろうという疑問を持つと思いますが、ところがどっこいそんなことがまかり通ってるんです。
 
常にアニメーター不足な中で、納期に合わせて作品を制作しなければならない制作会社の多くは実力が足りていないアニメーターにも仕事を発注せざるを得ないということが日常的に起きています。
 
これには2つの理由があると僕は考えています。
 
1)アニメという産業自体の構造的な問題
 
常に毎クール毎クール同じ量の作品数を作るということができないということ。
作品数の多いクールもあれば、少ないクールもあります。
劇場作品が多くある年もあるでしょう。
しかし各制作会社は固定費を抑える為、最低限のスタッフしかいません。
そんな中、予定外の仕事が入った場合無理して受注することになります。
断るという選択肢ももちろんありますが、みすみす他社に回るなら無理してでも自分のところでやった方がいいということですね。
政治的な駆け引きや、普段お世話になってるところを助けてあげたいという人情的な理由もあります。
それとは別に大きな理由として、いつ仕事が減るか分からないので稼げる時に稼ぎたいということが挙げられます。
よほどネームバリューやクオリティ等、信頼を勝ち取ってる会社であれば多少仕事を断ったところで次もありますが、そうではない多くの会社は無理をすることになる訳です。
ちなみにこれは会社ではなく個人のアニメーターも同じ理屈で無理をします。
 
2)アニメ業界自体に人を育てる環境が無い
 
上で書いたように、常に余裕が無くギリギリの状態で作品作りをしているので、新人育成の余力がほとんどの会社にありません。人的にも時間的にも資金的にも全ての面で余力なんかありません。
アニメミライというプロジェクトもありますが、僕個人的にはアニメーターの育成という点ではそれほど効果的な取り組みではないと思っています。これはまた別途その理由を書きますが。
新人アニメーターですが、ちょくちょくネットで話題になるように非常に給料が安いので、一人前になる前に大半の人が辞めていきます。
新人を補助するような業界全体のシステムは無いです。
ちなみに新人アニメーターがどうやって食っていってるかというと、貯金を切り崩すか、家族から援助をもらってるか(実家暮らしだったり、仕送りをもらったり)が大半ですね。
一部の才能がある人はすぐに一人で食べていけるようになりますが、それでも短くて数ヶ月は十分な収入は得られないです。
普通の人は1年~数年かかります。数年経てば食えるようになるかというと、その保証はない業界です。
これだけの試練というか難関を残れる人の割合がどれぐらいかということです。
一部の数少ない会社は新人支援のシステムがありますが、そこでは厳しい選抜が行われて才能のある人しか支援を受けることができません。
 
 
という訳で、常にアニメ業界は人材が不足している訳です。
 
これが日常になっていて、何が起きるかというと今いる人材の流出と業界の衰退です。
 
・多少でも目端の利く能力の高い人は、早いうちにアニメ業界から去っていきます。
・残るのは、才能のある一部のトップレベルの人、新人、能力は低いけれど人手が足りないから仕事を貰えてる人ということになるでしょう。
・そうすると一部の能力が高い人に負担が集中します。本人の希望ではなくとも演出や作監をさせられることもあります。
・新人に対しても無茶振りが横行します。
・全体的に無理をしてるので、リテイクや修正量が増えます。
・修正する為にさらなる無理を重ねます。
・修正するには時間だけでなくお金もかかります。丁寧に作ってれば必要なかったであろう無駄なお金です。
・無駄な費用が発生してる為、会社の資金繰りも悪化します。
・それを補う為また無理をします。
・全員が疲弊して、結果産業全体が弱体化します
 
多分上の偉い人達はこうなることは分かってると思うんですけどね。
上の人達は自分たちの世代だけ逃げ切きれればいいと思ってるのか、それともどうすればいいか考えることができないのか、どうなんでしょう?

このままでは日本のアニメ産業は無くなってしまう/日本のアニメ業界の抱える問題(1)

このままでは日本のアニメ業界ヤバイと思うことがあります。

 
■商業としての将来性
■人材について
 
いろんな問題がありますが、大体この2つに集約するんではないかと。
 
まず、このうちの商業としての将来性について考えてみます。
 
日本のアニメってほとんどが若い人に向けたものなんですよ。
しかもその多くがいわゆるオタク向けの作品。
別にそれでもいいと思うんですが、それは毎年同じぐらい子供が生まれてればの話。
少子高齢化が進む日本社会で、若い人向けの作品ばかり作っていたらいずれはジリ貧になることは誰でもわかります。というかすでになりつつあるし。
結局、見てもらう為に安易なエロに走ってるのが現状です。
意欲的な作品を作ったところで、会社としては売れなきゃ意味がないし。
最近だと個人的には「惡の華」とか映像的にもストーリー的にも面白いと思うんだけど、売上的には「インフィニット・ストラトス(I・S)」の方が圧倒的な訳ですよ。
I・Sはそれはそれで安心して見られて悪くはなかったけど。
 
かと言ってクオリティを売りにしようにも、ファンも目が肥えてきてるし、度肝を抜くようなクオリティなんか大半の会社は出せないし、仮に出せたところで売上げはI・Sの方が上ですよ。
ギルティクラウン」も「忘年のザムド」も「グレンラガン」も「電脳コイル」も「キルラキル」も軒並み「I・S」に売上で勝てないって…。「悪の華」なんか言わずもがな…。
まあ原作付きとオリジナルの違いはありますが。
 
人気が取れるのは「進撃の巨人」「鋼の錬金術師」「デスノート」「物語シリーズ」「Fateシリーズ」とかの原作人気が確立してる作品ばかりですね。
人気のある原作を担当できなかった会社はエロに走りがちになるという構図になる訳です。
まあエロに走るのは究極的には別に良いです。
 
ここでの問題点は40代以降とかファミリー層に向けた作品がほとんど無いということ。
上で挙げた人気作品もある程度若い人に向けたものばかりです。
 
これから日本は超高齢化社会に入っていく訳です。さらに言うならどんどん若者の数は減っていっています。
その時に今と同じテイストの作品ばかり作っているとどうなるかということです。
 
・業界全体としての売上が減る
・多くの会社が倒産
・技術者の海外等への流出
・生き残った会社も業績の悪化
・競争の激化
・悪条件での仕事の受注
・待遇の今以上の悪化(業務内容や勤務時間etc)
・さらなる人材の流出
 
こんなところかな。
 
もうちょい深く考えてみると実際の問題は、40代以降とかファミリー層で楽しめる作品が無いことではなく、そういった作品でマネタイズする仕組みが無いことと、マネタイズする仕組み作りに挑戦するだけの体力のある会社がないことなんですけどね。

このブログについて

東京にあるアニメ会社で働いています。

 アニメ業界で働いていて思うことが、この業界の将来は大丈夫なのかいな?ということです。

 
30歳後半になっても独り身で激務で働いてる人がザラにいる訳ですよ。
アニメーターも制作も役職関係なく。中小に至っては社長が一番忙しく激務なんというのも当たり前だし。
かと言って給料が良いかというとそうでもない。
アニメ業界の給与とかに関してはちょっとググってみたらある程度分かると思います。
 
で、将来的に待遇なり何なりが良くなる目があるかというと、そうでも無さそうな訳です。
 
これはアニメ業界自体に問題があるのかというと、確かに内部でも問題の多い業界ではあるけれど、それが全部では無さそうだなと。
 
今は世界的に見ても社会自体が大きく変わろうとしてる時期です。
そんな中でこれまでと同じやり方をしてたんじゃ、時代に取り残されてしまうでしょう。
 
という訳で、これは日本のアニメ業界に対して内部から見てヘンだなと思うこと、将来どうしましょうということについて考えたことを書いていくブログです。